「断れない仕事」が利益を食っていた——印刷会社の採算構造の立て直し
2025-12-31
企業概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 印刷業(官公庁向け特殊印刷) |
| 所在地 | 東京都内 |
| 売上高(支援開始時) | 数億円規模 |
| 支援期間 | 全5回 |
支援前の状況
官公庁向けの特殊印刷を主力事業とする印刷会社。情報セキュリティ認証と多数の協力工場ネットワークを擁する。売上は横ばいが続いていたが、売上総利益率が3期連続で急落し、2期連続の営業赤字となって債務超過に転落。取引金融機関からは経営改善計画書の提出を求められており、リスケ状態で返済猶予を受けていた。
見えてきた本質的な課題
売上は安定しているのに、なぜ利益が消えているのか——決算書を見ると、売上総利益率が3期にわたって大幅に低下していた。
問題の本質はここにあった。官公庁向けの入札案件は原価率が非常に高い。紙代・インク代といった材料費の高騰が積算に反映されないまま、採算の悪い案件を落札し続けていた。 一方、自社独自のルートで取ってくる民間案件は相対的に採算が良い。同じ印刷の仕事でも、採算構造がまったく異なっていた。
官公庁の予算執行が特定の時期に集中する構造が、そのまま季節変動リスクになっていた。また、情報セキュリティ認証、複雑な特殊加工をこなす設備、多数の協力工場ネットワークという本物の強みを持ちながら、「機密性が高いから表に出せない」という守りの発想でホームページはほぼ更新されず、外部には一切伝わっていなかった。
支援内容
採算の見える化と案件の選別——売上高・変動費・粗利・固定費の構造を整理し、案件別の採算性を可視化。「受注すべき仕事」と「撤退すべき仕事」を数字で判断できる基準を作った。
民間ニッチ市場への直接営業——情報セキュリティを必要とする民間企業向けに、他社が対応しにくい特殊加工案件にターゲットを絞り込んだ直接営業の方針を設計した。
協力工場ネットワークの活用——閑散期に他社が捌けない案件を引き受ける、または自社が受けきれない案件を紹介し合う相互紹介の仕組みを設計。季節変動の対策として整備することを提案した。
ホームページと情報発信の整備——情報セキュリティ認証、特殊加工の実績、独自設備を「選ばれる理由」として整理。具体的な案件名を出さずに実績・設備・認証の情報を発信する方法を提案した。
経営改善計画書の策定——売上増加・粗利率改善・キャッシュフロー最大化の3軸で数値目標を設定し、金融機関への提出を前提とした計画書を作成した。
成果
採算の悪い案件からの撤退と高付加価値案件への集中が奏功し、今期の売上総利益率は大幅に回復。厳しい業界環境の中で、黒字着地の見通しが立った。「今まで売上を維持しようとして、採算の悪い仕事も断れなかった。でも数字で見ると、取らない方がいい仕事があることが分かった。」何を取り、何を取らないかという判断軸ができたことが、最も大きな変化だった。
支援を振り返って
この案件は、「売上は安定しているのに利益が消えている」という構造をどう解きほぐすかが核心でした。
財務諸表を見ると、3期連続の粗利率低下が一目瞭然でした。しかしその原因は、「悪い経営」ではなく「採算の悪い仕事を断れない構造」にあった。官公庁との長年の取引関係、入札という受注形態、材料費高騰の転嫁の難しさ——これらが重なって、気づけば利益が出ない仕事を抱え続けていた。
印象的だったのは、経営者が現場の感覚として「こっちの仕事は割に合わない」ということを分かっていたことです。ただ、それが数字で整理されていなかった。ヒアリングの中で民間案件と官公庁案件の原価率を並べて見ることで、戦略の方向性が自然と決まった。
また、情報セキュリティ認証と協力工場ネットワークは、同業他社には容易に真似できない参入障壁です。「機密性が高いから表に出せない」という守りの発想から、「機密性を扱えるからこそ選ばれる」という攻めの発想への転換——これを一緒に作っていくことが、この支援の根幹にありました。
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