「案件はある。でも組織の問題を先に片付けないと」——運送会社の土台づくり
2025-05-31
企業概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 運送業(食品・鉄鋼・医薬品・家電など多品種輸送) |
| 所在地 | 東京都内 |
| 従業員数 | 正社員11名(ドライバー9名) |
| 売上高(支援開始時) | 約1億5,000万円 |
| 支援期間 | 全5回 |
支援前の状況
創業から長年にわたって地域の運送ニーズを支えてきた中小運送会社。食品配送、特殊鋼輸送、夜間薬局配達など多品種の輸送を手がけ、売上は約1.5億円。しかし営業赤字が続き、借入金は約9,100万円、純資産はマイナスと債務超過状態にあった。取引金融機関からの新規融資も断られ、返済条件の変更(リスケ)に入っていた。
見えてきた本質的な課題
最初のヒアリングで「売上を増やしたい」という経営者の言葉に対し、営業部長がすぐに口を挟んだ。
「案件はあります。でも今は組織の問題を先に片付けないと、前に進めません。」
問題を掘り下げると、一部のドライバーが就業時間中に副業を行い、会社の車両を無断で使用していた。人道的な理由で黙認していたが、約束の期間が過ぎても続いていた。また、配送先から新しい仕事を依頼されても断っているドライバーがおり、他社の配車担当と結託していた。月間売上目標150万円に対し、100万円近い差がある社員が放置されていた。
「業績と給与が連動していないので、頑張っても頑張らなくても大して変わらない」——評価制度がなく、信賞必罰が機能していないことが組織の腐食を招いていた。
固定費の面では、営業所兼駐車場の地代が年間720万円かかっており、これが利益を大きく圧迫していた。
支援内容
権限委譲による実行体制の確立——代表者から営業部長へ、運送業務全般の執行権限を正式に移譲。役割分担を明文化し、現場の意思決定を格段に速くした。
ハイパフォーマー分析による採用・育成指針の策定——月186万円の売上を上げる営業部長の行動を分解し、「確実な配送と丁寧な対応」「会社の車両を自分の所有物のように大切に扱う」「新規依頼を積極的に受ける」という行動特性をコンピテンシーとして言語化。採用・評価・育成の基準にした。
評価・報酬制度の設計——売上目標の達成度に応じた報酬制度を設計。追加配送1本あたりの追加報酬を設定し、頑張れば報われる仕組みを作った。
問題社員への対応——就業規則違反に対し、労働基準法上の手続きを踏んだ適正な減給処分を実施。組織全体に「ルールは守られる」というメッセージを送った。
固定費削減——営業所の移転を実施し、月額30万円弱・年間350万円以上の固定費削減を実現した。
成果
権限委譲により現場の意思決定が速くなり、「案件はあるのに組織が追いつかない」状態を脱する基盤ができた。拠点移転により年間350万円以上のコスト削減を実現。さらにハイパフォーマーの評判が社外に伝わり、他社から優秀なドライバーの入社希望が出始めた。
支援を振り返って
この案件は「強みより先に弱みの話をしなければならない」という典型例でした。
最初に「売上を増やしたい」という言葉が出たとき、普通ならすぐに営業戦略の話になる。でも営業部長の一言——「組織の問題を先に片付けないと進めない」——を聞いて、方向を変えました。この一言は、現場をいちばんよくわかっている人の声です。
問題社員への対応は経営として最も難しい判断のひとつです。人道的な配慮で黙認していた副業が、約束を破られ会社の車両まで使われていた。私は「信賞必罰を機能させることが、組織全体への誠実さだ」という立場で支援しました。
コンピテンシー分析(できる人の行動の言語化)は、私が人事的手法から経営支援に取り込んでいる手法です。「なぜこの人はできるのか」を分解すると、採用すべき人材像、育成の方向性、評価の基準が自然と見えてきます。
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